二人の子を抱えたアラフォーの女性です。ご主人が残してくれた保険金は、「1円だって無駄にしたくない」(7/6日経夕刊)というのももっともなことです。その未亡人に、相続税と所得税の二重課税なんてひどい、と報道を見ていると思えてくるのですが、ちょっと違うのかなという気もしています。
相続税には基礎控除が認められていて、5千万円+1千万円×相続人の人数で計算される金額までは非課税です。今回の例でいえば、相続人が奥さんとお子さん2人の計3人ですから、5千万円+1千万円×3人=8千万円まで相続税はかかりません。
今回受け取った生命保険金は、一時金で4千万円と、問題の年金部分が毎年230万円を10年ということで、2千3百万円です。他にどれほどの財産を相続したのか分かりませんが、相続財産が1億6千万円までは配偶者控除もあって相続税がかかることはありません。通常、相続が発生しても、相続税を納めるのは全体の約4%といわれています。いずれにせよ、この女性は実際には相続税は納めていないそうです。(7/6朝日新聞夕刊)
ということは、「1円だって無駄にしたくない」というのは、報道されているような二重課税に対してということではなく、2千3百万円の年金部分も一括で受け取っていれば、一切税金がかからなかったのに、分割して受け取ったために税金がかかってしまったことに対して、無駄にしたくなかったということなのだろうと推測できます。
もちろん、これも重要な問題です。今回の年金保険がどういう商品だったのかは定かではありませんが、受取人が一括で受け取るか、分割で年金形式で受け取るかを選べるものが多くあります。当然分割で受け取ったほうが運用期間が長い分、受け取り総額は多くなります。相続発生後の運用益には税金がかかりますが、未成年の子を養うことを考えれば、一度に受け取るよりも分割して受け取るという選択をするのもうなづけます。
法律論的には、相続税と所得税の二重課税の問題となっていますが、一括で受け取れば税金はかからないのに、分割して受け取ると税金がかかるというのはおかしいじゃないか、というのがこの女性の率直なところなのだろうと思います。
さて、ここからなのですが、当面は二重課税は他にもあるということで、納めすぎていた分の還付が問題になるようです。ただ、二重課税といっても多くの方は、今回の原告の女性のように相続税は納めていないわけですから、それほど目くじらを立てて騒ぐことでもないのだろうと思います。いずれこの問題は落ち着くことでしょう。そして問題になるのは、二重課税といって税金を還付したはいいけれど、結局相続で多額の財産を手にしても、ほとんどの人は税金を1円も納めていないではないか、ということではないでしょうか。
社会の格差が広がるなかで、ほとんど相続税が発生しない現状のままでよいのかは、今回の争点とは別に考える余地がある。(7/6朝日夕刊)このように、相続税の課税強化論へとつながっていく懸念があります。
公平な社会を築くためには、相続税はもっと強化すべきだという意見は、一見もっともなように聞こえます。しかし、地価は下がったとはいえ、まだまだ相続財産に占める不動産の割合は大きいものがあります。相続税を支払うために、生まれ育った家を売らなくてはならないということもあります。多くの人がこんな目にあうような社会はいいものとはいえないと思います。
頑張って稼いだ財産を、自分の子どもに残したいというのは、昔からの人間の素直な感情なのではないでしょうか。とはいえ、財産のある人がない人よりも多く税金を負担することは当然です。ただ、行き過ぎると問題も出てきます。現状でも相続対策で苦労している人がいるのですから、相続税の課税強化はどんなものかと思います。
真に平等な社会とは、相続で手にした財産を取り上げることではなく、相続で手にした財産ごときで、人生が決定的に左右されないような社会だと思います。そうした社会をつくる努力をせずに、安易に相続税で持てる者から取り上げるようでは、本当の平等は達成できないと考える次第です。
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CFPの試験を来週に控えて、年金に関する税金を調べているうちに、このページにたどり着きました。
二重課税に関する最高裁判決の話は知っていましたが、相続課税強化論へと話が広がってゆくという視点は、私にはこれまで気がつかなかったもので、とても勉強になりました。
私のホームページにリンクさせていただきました。
また、ためになる記事を楽しみにしています。