しかし実質元本保証なら、変額年金保険ではなく、低くても一定の利回りを保証した定額の個人年金保険でいいのではないかという思いもありました。ただ、元本保証だから変額年金を購入したという利用者も多いですし、変額年金の購入に充てられた資金だからこそ、個人マネーが投資マーケットに入ったということも確かです。定額の個人年金保険の資金では、確実な運用をしなければなりませんから、その資金がリスクの大きなマーケットに回ることはありません。そういう意味では、最低保証付の変額年金保険は、「貯蓄から投資へ」橋渡しをした金融商品だということもできます。
契約者が変額年金保険に支払った保険料は、総額約15兆円にもなります。これほどにまで大きくなったのは、銀行による販売力が強力であったためだろうと思います。生命保険会社は新たな販売チャネルである銀行で自社商品を販売してもらうために、本来元本保証に馴染まない商品の保証をしなければならなかったのかもしれません。銀行にしてみれば、利用者の声を商品に反映するように保険会社に届けた結果ということでしょうが、販売しやすくすることで多額の手数料を稼ぐことができました。リスクを生命保険会社に転嫁することで、多額の手数料を稼ぎ出したという側面もあります。
15兆円の変額年金保険資産は、昨年度末までに2兆円ほど目減りしています。これを負担する生命保険会社の中には、変額年金から撤退したところもあります。変額年金保険は、個人マネーをマーケットに導いたとしても、結局はリスクを生保へ転嫁しただけのことでした。仮に金融危機などが起こらず、市場が正常に機能していたとしても、リスクを転嫁された生保はそのリスクのために積極的な運用はできず、契約者はそれほど高いパフォーマンスを望むことはできなかったはずです。
リスクを誰かに押し付けるだけでは、本当の投資とはいえません。当然、個人投資家がリスクを抱え込むことも同様です。変額年金保険は、まだ運用が継続していますから短絡的な評価は適当ではありませんが、これまでのところ失敗した金融商品と言われても仕方がありません。しかし、その原因は、商品自体にあるのではなく、余計な手を加えたところにあります。リスクを誰がどの程度まで負えるのか、そういうきめ細かい配慮がなされていなければリスクのある金融商品としては失格です。それにはコストもかかるでしょう。そうしたコストを見込んでも投資する価値があるかどうかを見極めなければなりません。手間を惜しんでいてはいい金融商品は生まれてこないのだろうと思います。