日銀が量的緩和をしていた2001年から2006年までは、景気の後退期を脱却して好景気に入った時期に重なり、その好景気は実感に乏しいとはいえ、戦後最長を記録しました。量的緩和それ自体が好景気を作ったとはいえなくても、それを後押しした政策だったことは確かです。ですから、日銀の量的緩和が効果的でなかったという評価は、一部分しか見ていないのではないかと考えられます。
日銀の量的緩和は、金融機関が日銀に持つ当座預金の残高に目標値をもうけ、そこに達するまで日銀が金融機関に対して資金供給を続けるという緩和策でした。それに対して、今のアメリカの緩和策は、企業のCPやローン担保証券をFRBが買い取り、資金を直接必要とする企業に供給するというもので、確かに銀行を間に置く日銀の政策よりもダイレクトに資金が回るだろうと見られます。
しかし、日銀が量的緩和策をとったをきには、企業の資金の目詰まりもそうですが、銀行の経営自体にも不安がありました。決算期ごとにどこの銀行が危ないなどといった噂や報道が飛び交い、9月危機や3月危機が季節行事のように繰り返されていました。それに加えてペイオフ解禁などもあり、銀行に資金を預けないタンス預金が増え、場合によっては取り付け騒ぎが起こるかもしれないという懸念がありました。
そうした懸念に対処することが、量的緩和策の目的でもありましたから、まずは銀行の当座預金にあり余る資金があることを広く世間一般に示し、銀行の機能に懸念がないことを示す必要がありました。この点では日銀の量的緩和策は成功したといえます。その点、現在のアメリカでは預金者が取り付け騒ぎを起こすような状況ではありませんから、日銀と同じ量的緩和にする必要はなく、それよりも資金の供給量を多くすることが必要との判断に基づく措置を取っているといえます。
アメリカの対策は、バブルが弾けた後に金融緩和を大きくして資金を過大なくらいに供給して、新たなバブルを起こして凌ぐというやり方です。ITバブル後に金融を緩和して、今回弾けた住宅バブルを起こしたことがそのいい例です。ですから、今の量的緩和策も実は次のバブルのもとである可能性は否定できません。
日銀の量的緩和策は、資金供給という意味では効果的ではなかったとはいえ、その政策のもとで景気は回復し、それほどのバブルも起こしていませんでした。その代わりなかなかデフレから脱却できなかったわけですが、日銀とFRBのやり方を比較してどちらがいいのかということは、まだ判断できるものではないだろうと思っています。
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